病める夜に

メンヘラHSPが書いた詩です

凍えた視線で

心地よい無言へと手招きする町で
小さい夢の芥が
ひらひらとわたしをおかす
私はそれを見ていた
凍えた視線で。


視線は、空想をとらえていた
ことばはもう
すれ違いを突きつける道具だと
わたしは結論づけていたから
朝は暴力的で
夜は引き摺られる闇で
闇はわたしのたった一つの
住まいでした。

始まり

大声で何かを世界中に伝えて走り出したいほどに
きみが世界だった時もあった かもしれない

思い切り吸い込むと
ちょっとつっかえる空気が
あなたとの隔たりを知らせてくれて

"どうしてわたしをつくったんだ" と叫ぶこころを
静かに罵ることでぎりぎりで立っている私は

それはワガママです。母に言われたときのわたしは
何もかも素直に受け取る子どもでした

羊を数える

叫び続ける夜が明ける頃
こころの奥を 覗かないでと
じっと見つめる目は、わたしの向こうに
薄い夢を眺めていて

羊を数えて 羊を探そうとした
道のりは何だったか解らず
暴力の芽を呼び起こしたのは私なのかと
静けさの中で呪いにおちる

この肌から剥がれおちて
葬った未練を見つけないで、お願い。
放熱も不安も膨張をつづけて
ばらばらに切り刻まれる意識を
つなぐために
間違った宛先を彷徨う指は
だれにも愛されないと
わたしは思う。

故郷の青

内なる赤に燃やされている時
あなたは故郷の青を仰ぐ

生命の質量は いくぶんか欠けながら 手をぶらりとつないで歩く
空気の葉脈をたどったら もとの闇に溶ける
わたしたちは、
感受性をなぐられて 感受性になぐられて 感受性に尽くして
やっと しるし程度の祝福をうける。
遺せるものはない

空気の糸を 手繰り寄せて
堆積してきた想いや祈り 痛みや叫び 憧れや挫折を ひとつひとつ
弔おうとする わたしがいる。
だれかの代わりに泣くために
あなたがいる。

よごれた塵を からだに吸う。
自分にさえなれず
故郷の青にしがみつく
取り憑かれた自我を、
もたなかった頃の 陽だまりだったわたしたちから
十年後も手紙を送ろう。

空を吸い込みつづけている漆黒の瞳は
他の影もじぶんの影のように
庇おうとする平熱だった。
すべてはそこに在った

だれかを見つめる時、風も陽射しも 遠くのはしゃぎ声も
写真に含める わたしを失いたくない

贈り物

ぜんぶ不器用な なみだ なの
羨ましいとか 狡いとか
大嫌いだとか 愛してるさえも
ティッシュペーパーや 思索のための思索や 一人芝居の不安
消費されていくもの
意味のないこと ばかりを
繰り返して生きていくんだね。
でもそうじゃないなら
もっと寂しい

三日月

万人に与えられた美しい平凡を
愛するのか拒むのか、
示唆の濃い気配のする夜に
とりあえず決めてみます。

貴方が三日月を編んでいく 手指が
何を愛し もたらすか予感できても
受け容れようと血迷った わたしは
孤独が苦しかったのでしょう

何がどうゆるされないのか 知っています。
なのに言葉は失われていて、
それを貴方に知られていることが
何よりわたしを無力にします。

空洞を見つめられずに
人は、愛をつくり上げました。
ほんの一部にさえ真実を縫いつけず
儀式は繰り返されていきます

忘れられたらいいのにね、とやさしさで呟くのなら
闇夜でなされていることに 目を凝らしてください
それは、貴方です。
それが貴方です

世界の裾

すべての闇が 切りすてた影の仕業だとして

決して存在しない型紙の一片を
探しあてようとする空虚が
わたしをつくり わたしを壊したとして

雨の午後
鏡に映っている
じぶんの
介入できる要素のちっぽけさに
心を打たれている

抱えきれない光ではすべてが熱に溶けてしまう
あなたの見せる世界がどれほど
素晴らしくても

同じものを眺めて
同じものを求めたなら
それは
愛と呼べて
呼ばなくてもいい

そうやって
世界の裾だけをつかむ

いつか

いつまでも変わらない筈だよって
無邪気にあなたは話した
忘れていくものがなぜか違って
そろそろ悲しみが名前を変える

いつか楽になるはずだよって
やさしそうにあの人は話した
痛みを背負う力もないんだねと
そろそろ言ってしまいたくなる

いつか掴めるはずだよって軽く
ゆっくりとあなたは話した
忘れてしまう早さがあまりに違って
そろそろ悲しみが何かへと移る

いつか移り変わるはずだよって先に
遠くのあの人は話した
愛せるものの幅があまりに違って
そろそろ此処にいられなくなる