故郷の青
内なる赤に燃やされている時
あなたは故郷の青を仰ぐ
生命の質量は いくぶんか欠けながら 手をぶらりとつないで歩く
空気の葉脈をたどったら もとの闇に溶ける
わたしたちは、
感受性をなぐられて 感受性になぐられて 感受性に尽くして
やっと しるし程度の祝福をうける。
遺せるものはない
空気の糸を 手繰り寄せて
堆積してきた想いや祈り 痛みや叫び 憧れや挫折を ひとつひとつ
弔おうとする わたしがいる。
だれかの代わりに泣くために
あなたがいる。
よごれた塵を からだに吸う。
自分にさえなれず
故郷の青にしがみつく
取り憑かれた自我を、
もたなかった頃の 陽だまりだったわたしたちから
十年後も手紙を送ろう。
空を吸い込みつづけている漆黒の瞳は
他の影もじぶんの影のように
庇おうとする平熱だった。
すべてはそこに在った
だれかを見つめる時、風も陽射しも 遠くのはしゃぎ声も
写真に含める わたしを失いたくない
三日月
万人に与えられた美しい平凡を
愛するのか拒むのか、
示唆の濃い気配のする夜に
とりあえず決めてみます。
貴方が三日月を編んでいく 手指が
何を愛し もたらすか予感できても
受け容れようと血迷った わたしは
孤独が苦しかったのでしょう
何がどうゆるされないのか 知っています。
なのに言葉は失われていて、
それを貴方に知られていることが
何よりわたしを無力にします。
空洞を見つめられずに
人は、愛をつくり上げました。
ほんの一部にさえ真実を縫いつけず
儀式は繰り返されていきます
忘れられたらいいのにね、とやさしさで呟くのなら
闇夜でなされていることに 目を凝らしてください
それは、貴方です。
それが貴方です